結論|退職金は「日本で最も税制優遇された所得」、ただし短期勤続には制限がある
退職金は所得税法上、退職所得として分離課税され、3つの優遇が積み重なる、日本で最も税制優遇された所得と言えます。
- 退職所得控除で勤続年数に応じた大きな非課税枠
- 控除を超えた額も1/2しか課税されない(1/2課税)
- 給与所得など他の所得と分離課税(合算による税率上昇なし)
しかし2026年4月の税制改正で、勤続5年以下の短期勤続者に対する1/2課税が大きく制限されました。これが俗にいう「短期退職5年ルール」です。役員以外の従業員も対象に含まれた点が、従来の「特定役員退職手当等」と異なる重要なポイントです。
出典は国税庁・退職金と税、および財務省・令和7年度税制改正の解説です。
実額の試算は 退職金 税金 計算機 で勤続年数・退職金額を入れて確認できます。
仕組み|退職所得の計算式
退職所得の課税対象額は以下のとおり計算します。
退職所得(課税対象額)= (退職金 − 退職所得控除額) × 1/2
退職所得控除額
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 × (勤続年数 − 20年) |
例:勤続38年なら800万円+70万円×18年=2,060万円まで非課税。
退職所得控除額を超えた部分も1/2しか課税対象にならず、さらにその額を分離課税で処理するので、実効税率は給与所得より大幅に低い設計です。
障害退職の上乗せ
業務上の障害が原因で退職した場合は、退職所得控除額に100万円が加算されます。
計算根拠|2026年改正で「短期退職5年」が拡大
従来から、役員等の勤続5年以下の退職金には1/2課税が適用されない「特定役員退職手当等」のルールがありました(2013年導入)。2022年からは役員以外の勤続5年以下の従業員も対象となり、控除超過部分のうち300万円超については1/2課税が無効になっていました(短期退職手当等)。
2026年4月の改正ではさらに、退職所得控除を超える金額の取り扱いがより厳格化されました。
改正後の計算(勤続5年以下・役員以外)
退職金から退職所得控除額を差し引いた金額のうち、
- 300万円以下の部分:×1/2課税(従来どおり)
- 300万円超の部分:1/2課税の適用なし(全額が課税対象)
つまり勤続5年以下で退職金が高額な場合、退職所得控除を引いた残りに対して前半300万円までは1/2課税、それを超える部分は全額課税という二段階課税になります。
改正後の計算(勤続5年以下・役員)
役員(取締役・執行役員・監査役等)は控除超過部分すべてが1/2課税の適用なし。これは旧ルールから変更なしですが、2026年改正後も維持されます。
計算例|勤続3年・退職金500万円・役員以外
- 退職所得控除:40万円×3年=120万円
- 控除後:500万円−120万円=380万円
- 300万円までの部分:300万円×1/2=150万円
- 300万円超の部分(80万円):80万円(1/2なし)
- 課税退職所得:150万円+80万円=230万円
- 旧ルール(全額1/2課税)なら:380万円×1/2=190万円
- 改正により40万円多く課税対象に
ケース別の例|勤続年数別の影響
ケース1|大企業勤続38年・退職金2,200万円
- 退職所得控除:800万円+70万円×18年=2,060万円
- 課税退職所得:(2,200万−2,060万)×1/2=70万円
- 所得税+住民税:約7万円
- 手取り:約2,193万円(実効税率0.3%)
- 短期退職5年ルールは無関係
ケース2|転職初年度に退職・勤続2年・退職金100万円
- 退職所得控除:40万円×2年=80万円
- 控除後:100万円−80万円=20万円
- 300万円以下なので1/2課税:20万円×1/2=10万円
- 所得税+住民税:約1万円
- 実効税率:1%程度
ケース3|外資転職勤続4年・退職金1,000万円・役員以外
- 退職所得控除:40万円×4年=160万円
- 控除後:1,000万円−160万円=840万円
- 300万円までの部分:300万円×1/2=150万円
- 300万円超の部分:540万円(1/2なし)
- 課税退職所得:150万円+540万円=690万円
- 所得税+住民税:約170万円
- 旧ルール(全額1/2課税)なら:840万円×1/2=420万円 → 課税約95万円
- 改正による追加負担:約75万円
ケース4|大企業役員退任・勤続3年(役員のみ)・退職金3,000万円
- 退職所得控除:40万円×3年=120万円
- 控除後:3,000万円−120万円=2,880万円(全額1/2課税なし)
- 課税退職所得:2,880万円
- 所得税+住民税:約1,150万円
- 短期役員退職金は極めて重い課税
失敗しやすいポイント
失敗1|「退職金は1/2課税で安心」とすべて同じに考える
勤続5年以下、特に役員は1/2課税が使えません。短期役員退職金には他の所得と同じ累進課税が直接かかる重い負担になることを、人事担当者ですら見落としやすい。
失敗2|複数回退職時の控除調整を忘れる
過去14年(2026年4月以降は4年)以内に他社で退職金を受給していると、重複勤続期間分の退職所得控除が調整されます。中途退職・転職を繰り返した人ほど影響が大きく、想定より控除が小さくなる場合があります。
失敗3|退職金とiDeCo一時金を同年に受給して控除枠を食う
iDeCo一時金は退職所得扱い。退職金と同年に受け取ると控除枠を一度しか使えません。年をまたいで分散すれば2回分の控除枠を活用できる可能性があります(iDeCo出口戦略の解説)。
失敗4|「退職所得の受給に関する申告書」を出さない
退職時に勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出すれば、退職所得控除を使った正しい源泉徴収が行われます。提出しなかった場合は退職金全額に20.42%が一律源泉徴収され、確定申告で還付請求しない限り取り戻せません。
失敗5|失業給付との順序を誤る
退職金の受給と雇用保険の失業給付は別建てで、退職金が多いから失業給付が減るということはありません。ただし退職金の課税年度の所得が増えると国民健康保険料が翌年上がるので、退職翌年の負担増は織り込んでください(失業給付 計算機)。
まとめ|退職金を受け取る前のチェックリスト
- 勤続年数が5年以下か → YES なら1/2課税制限の対象判定
- 役員か → YES なら控除超過部分すべて1/2なし
- 過去14年以内(2026年4月以降は4年以内)に他で退職金を受給したか → YES なら退職所得控除の調整
- iDeCoを同年に受給予定か → YES なら年をまたぐ検討
- **「退職所得の受給に関する申告書」**を勤務先に提出(必須)
- 試算は 退職金 税金 計算機 で勤続年数・改正対応の有無を選択して確認
短期勤続でも改正の影響は限定的(役員でなければ)ですが、外資系の高額退職金・役員退任を控えている方は影響が大きいので早めの試算を推奨します。
関連する計算機
- 退職金 税金 計算機 — 勤続年数・短期退職特例まで対応した手取り試算
- iDeCo 受け取り方 比較計算機 — 退職金との順序を変えて手取りを最大化する出口戦略
- 失業給付 計算機 — 退職後の失業手当をパターン別に試算
この記事の数字を試算する
関連するガイド
この記事の執筆者
Kojok:計算屋(keisanya.com)の運営者。家族の医療費・親の介護・自身の副業をきっかけに、.go.jpの一次資料に基づく独立計算機の整備を続けています。記載数値は制度の仕組みに基づく目安で、断定的助言は記載しません。